霧の中の少女

2/28(金)ロードショー

Introduction

イタリアの至宝トニ・セルヴィッロとジャン・レノ、二大スター俳優の初共演が実現した極上のミステリー

 その世にも奇妙な事件は、妖しい霧が立ち込めるクリスマス・シーズンの田舎町アヴェショーで起こった。地元の純真な少女アンナ・ルーが、教会に行くため自宅を出てまもなく忽然と消えてしまったのだ。捜査の指揮を執るため都会からやってきたヴォーゲル警部は、この目撃情報も物証も一切ない事件を何者かによる誘拐だと断定し、メディアの好奇心をあおってセンセーションを巻き起こす独特の捜査手法を実践していく。やがてヴォーゲルは捜査線上に浮かび上がったマルティーニ教授を容疑者と見なして追いつめるが、正体不明の連続誘拐魔“霧の男”に関する情報がもたらされ、ヴォーゲルの“完璧なる捜査”は根底から覆されていくのだった……。
『グレート・ビューティー/追憶のローマ』や『イル・ディーヴォ -魔王と呼ばれた男-』、そしてイタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニをモデルにした近作『LORO(ローロ) 欲望のイタリア』における名匠パオロ・ソレンティーノとのコラボレーションで絶賛を博し、日本でも多くのファンを獲得したトニ・セルヴィッロ。この“イタリアの至宝”とも呼ばれる世界的な名優に「脚本の質の高さに心を奪われた」と言わしめた『霧の中の少女』は、アルプス近郊の山間の町で発生した少女失踪事件の意外な成り行きを描いたミステリー・スリラーだ。セルヴィッロを驚嘆させた脚本と、その原作小説の作者であるミステリー作家ドナート・カリシの監督デビュー作。さらに『グラン・ブルー』『レオン』など幾多のヒット作でおなじみのジャン・レノが助演を務め、セルヴィッロとの初共演が実現したことも特筆すべき話題である。

カリスマ警部を翻弄する少女失踪事件の謎 霧のかなたに隠された想像を絶する真実とは?

 本作の最大の見どころは、ミステリー作家としてベストセラーを世に送り出し、国内外で高い評価を得ているドナート・カリシ監督が創出したストーリーとキャラクターの妙にある。少女失踪事件の解明に挑む主人公ヴォーゲルは、巧妙にメディアを操って藪の中の犯罪者をあぶり出す型破りな捜査官。常にカリスマ的な威厳に満ちあふれたこの男は、傲慢とも思えるほどの自信家であり、狙った獲物=容疑者は絶対に逃がさない。ところが今回の事件はヴォーゲルを嘲笑うかのように異様な展開を見せ、その行く手には観る者の想像をも超えた驚愕の真実が待ち受けている。はたして霧のかなたに消えた純真な少女は、どこへ連れ去れたのか。神出鬼没の連続誘拐魔“霧の男”は、本当に存在するのか。すべての答えが明らかになる衝撃的なラスト・シーンまで、一瞬たりとも目が離せない。
 大学の卒業論文で連続殺人犯をテーマに選び、犯罪学と行動科学を研究したというカリシ監督は、ミステリー作家として成功を収めるはるか前から、このジャンルのスペシャリストとしての知識を蓄えてきた。「数多くのどんでん返しと謎、独特の感情、サスペンス」こそがスリラーに必要不可欠な要素だと語るストーリーテラーが、この監督デビュー作で遺憾なく手腕を発揮。念入りな伏線やミスリードを張り巡らせて観る者を翻弄しながら、ごく普通に社会に溶け込んで生活している人間の心の闇に切り込み、“平凡な悪”という主題を探求したドラマも見応え十分である。ちなみにカリシ監督は、ダスティン・ホフマンとトニ・セルヴィッロを主演に迎えた第2作『L'uomo del labirinto』をすでに完成させており、今後さらなる活躍が期待されている。

Story

 かつてリゾート地として栄えた山間の田舎町アヴェショー。雪が降りしきる深夜、引退間近の精神科医フローレス(ジャン・レノ)が、警察から捜査への協力を要請される。彼が事情を聞くよう依頼された相手は、交通事故によって記憶が混濁したヴォーゲル警部(トニ・セルヴィッロ)だった。ヴォーゲルはアヴェショーを騒がせた少女失踪事件の任務を終え、都会に戻ったはずなのに、なぜ真夜中にこの町へ舞い戻ってきたのか。ヴォーゲルのシャツにこびりついている血痕は誰のものなのか。フローレスに促されて重い口を開いたヴォーゲルは、数週間前のクリスマス・シーズンにさかのぼり、世にも奇妙な少女失踪事件の全貌を語り始めた……。

 アヴェショーの町が濃霧に覆われた12月23日の18時頃、教会に行くため自宅を出た地元の少女アンナ・ルーが謎の失踪を遂げた。捜査の指揮を執るためアヴェショーにやってきたヴォーゲルは、目撃情報も物証もないこの事件を何者かによる誘拐だと断定する。しばしばテレビに出演する有名人であるヴォーゲルは、アンナ・ルーの両親にテレビ向けの会見を行わせ、ヘリコプターや山岳救助隊を駆り出して大規模な捜索を開始。さらには顔なじみのニュース・レポーター、ステッラ(ガラテア・ランツィ)を利用して、この事件をイタリア全土の注目を集めるよう仕向けていく。ヴォーゲルが得意とするメディア戦略を駆使した捜査手法は効果てきめんで、あれよあれよという間に大勢のマスコミがアヴェショーに殺到してくる。

 まもなくある動画を手がかりとして、失踪前のアンナ・ルーにつきまとっていた不審な白いオフロード車の存在が浮上し、車の持ち主である文学の教授マルティーニ(アレッシオ・ボーニ)に疑惑の目が向けられる。アンナ・ルーが通う高校でも教鞭を執っているマルティーニには共に暮らす妻子がいるが、事件当日の午後はひとりで外出しており、確かなアリバイがない。猛烈な取材攻勢をかけたマスコミがマルティーニに不利な証言を次々と報じたことで、たちまちマルティーニは八方塞がりの状況に陥っていく。

 白いオフロード車が映り込んだ動画は、アンナに密かな想いを寄せていたマティアという少年が偶然撮影したものだった。それを入手したヴォーゲルはマルティーニが真犯人だとにらみ、動画をマスコミにリークした。こうして狙った“獲物”をじわじわと追いつめ、逮捕につながる決定的な証拠を捜し当てていくのがヴォーゲルのやり方だった。かつてイタリア中を震撼させた“破壊魔事件”で無実の男を死に追いやった苦い過去を持つヴォーゲルは、自身の汚名をそそぐために今回の事件の解決に執念を燃やしていた。

 やがて川辺でマルティーニの血痕が付着したアンナ・ルーのリュックが発見され、ついにマルティーニは逮捕された。ところが任務を終え、アヴェショーを立ち去ろうとしていたヴォーゲルは、ベアトリーチェ(グレタ・スカッキ)と名乗るベテランの記者から思いがけない真実を知らされる。正体不明の連続誘拐魔“霧の男”の存在を示唆するその驚くべき情報は、ヴォーゲルの“完璧なる捜査”を根底から覆すものだった……。

Profile

1959年、伊ナポリ県アフラゴーラ生まれ。1977年に劇団テアトロ・ステュディオ・ディ・カゼルタを設立。1986年に演劇グループ、ファルソ・モヴィメントに参加し、1987年には劇団テアトロ・ウニチの共同設立者となり、俳優および演出家として活躍する。1990年代前半から数多くの映画に出演しており、パオロ・ソレンティーノ監督と組んだ『L'uomo in più』(01)、『愛の果てへの旅』(04)、『イル・ディーヴォ -魔王と呼ばれた男-』(08)、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(13)で、日本の映画ファンにも広く知られるようになった。『イル・ディーヴォ~』と『グレート・ビューティー~』でヨーロッパ映画賞男優賞を2度受賞している。そのほかの主な出演作は『湖のほとりで』(07)、『ゴモラ』(08)、『われわれは信じていた』(10・未)、『穏やかな暮らし』(10・未)、『海の上のバルコニー』(10・未)、『眠れる美女』(12)、『至宝』(11・未)、『それは息子だった』(12・未)、『ローマに消えた男』(13)、『修道士は沈黙する』(16)、『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』(18)など。イタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニを主人公のモデルにしたP・ソレンティーノ監督作品『LORO(ローロ) 欲望のイタリア』(18)での圧倒的な存在感も記憶に新しい。

1966年、伊ベルガモ県サルニコ生まれ。19歳の時にショーや演劇への情熱に目覚め、1988年にイタリア国立実験センターを受験。惜しくも次点で不合格となったが、シルヴィオ・ダミーコ国立演劇学校に合格した。1990年代半ばから本格的に俳優としてのキャリアを踏み出し、数多くの映画、テレビ作品に出演。日本に紹介された主な作品には『輝ける青春』(03)、『13歳の夏に僕は生まれた』(05)、『グッバイ・キス -裏切りの銃弾-』(06・未)、『カラヴァッジョ 天才画家の光と影』(07)、TVドラマ「戦争と平和」(07)、『狂った血の女』(08・未)、アンジェリーナ・ジョリー、ジョニー・デップと共演した『ツーリスト』(10)がある。

1967年、伊ローマ生まれ。シルヴィオ・ダミーコ国立演劇学校で演技を学び、1987年に舞台デビュー。それ以降、演劇、映画、テレビ作品で幅広く活躍している。パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督作品『フィオリーレ/花月の伝説』(93)で映画デビュー。ジュゼッペ・ピッチョーニ監督作品『映画のようには愛せない』(04・未)、パオロ・ソレンティーノ監督作品『グレート・ビューティー/追憶のローマ』(13)の2作品でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の助演女優賞にノミネートされた。そのほかに日本に紹介された作品にはクリスチナ・コメンチーニ監督作品『心のおもむくままに』(95)があり、最近では、2018年にスタートしたNetflixのTVシリーズ「Baby/ベイビー」に出演している。

1948年、モロッコ・カサブランカ生まれ。スペイン系の両親のもとで育ち、17歳の時にフランスへ移り住む。演技学校で学んだのち、プロの俳優としてのキャリアを歩み出し、リュック・ベッソンとの出会いによって彼の短編『最後から2番目の男』(81)、長編デビュー作『最後の戦い』(83)、『サブウェイ』(84)に出演。『グラン・ブルー』(88)のエンゾ役で絶賛を博す。さらに『ニキータ』(90)における“掃除屋”のキャラクターをふくらませた『レオン』(94)で世界的なスター俳優となった。その後はフランスとハリウッドを行き来し、アクション、コメディ、ヒューマン・ドラマなどの幅広い作品に出演している。主な出演作は『フレンチ・キス』(95)、『ミッション:インポッシブル』(96)、『RONIN』(98)、『GODZILLA』(98)、『クリムゾン・リバー』(00)、『シェフと素顔と、おいしい時間』(02)、『ルビー&カンタン』(03)、『エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』(05)、『ダ・ヴィンチ・コード』(06)、『ピンクパンサー』(06)、『アーマード 武装地帯』(09)、『黄色い星の子供たち』(10)、『シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』(12)、『プロヴァンスの休日』(14)、『THE PROMISE/君への誓い』(16)など。

1973年、伊ターラント県マルティナ・フランカ生まれ。大学で法学を学び、連続殺人犯をテーマにした卒業論文を執筆。その後、犯罪学と行動科学の研究を行った。1992年に劇団ヴィヴァルテを設立して戯曲を書き、4つの作品を上演。1999年にローマへ拠点を移し、数多くのTVドラマの脚本を手がけた。2009年に初めてのミステリー小説「Il Suggeritore」を発表し、イタリアのバンカレッラ賞、フランスのポラール賞を受賞するなど国内外で高い評価を獲得。続いて2011年に「Il Tribunale delle Anime」、2013年に「Il Suggeritore」の続編「L'ipotesi del male」、2014年に「Il cacciatore del buio」、2015年に『霧の中の少女』の原作となった「La ragazza nella nebbia」、 2016年に「Il maestro delle ombre」を発表した。『霧の中の少女』で映画監督デビューを果たし、ダスティン・ホフマン、トニ・セルヴィッロを主演に迎えた監督第2作のスリラー『L'uomo del labirinto』(19)もすでに完成させている。

Interview

ドナート・カリシ監督 インタビュー

Q:自身の小説「La ragazza nella nebbia(The Girl in the Fog)」を映画化した経緯を教えてください。
 私は脚本家とプロデューサーとして映画の仕事を始めたから、いわゆる“シネカメラ”のことはもう長年知っている。だから本作は、最初に犯した犯罪現場に戻ってくるようなものだった。しばらく前に脚本として執筆したものだから、もともと長編映画になるべくして生まれたものだった。しかし実際に、先に完成したのは小説のほうだったんだ。それ以前に書いたスリラー小説「Il Suggeritore」も同様だった。同作品は映画の脚本として書かれたものだったけど、声をかけたプロデューサー全員に断られ、私はそれを小説にした。
私はコロラド・フィルムズのプロデューサーであるマウリツィオ・トッティとアレッサンドロ・ウサイとも知り合いだった。昨年、私たちは一緒に作品を制作するために会社を立ち上げ、何か形になるものを作り始めようと決めたんだ。ある雨の日、ミラノにいたとき、私はトッティに映画にしたいスリラー作品があると話し、結局、彼を説得するのに成功したんだよ。ちょうどその少し前に私に息子が産まれ、オムツを変えたり、寝かしつけようとして、眠れない夜を過ごしていた時期だった。そんなときに脚本を書いたんだ。
Q:ずっと前から本作のような“物語”のファンだったのですか。
 言うまでもなく、こういうものに浸っていなければならないし、私はこのジャンルをよく知っていると思う。また、法学部で学位をとったときの専攻が犯罪学と行動科学だったから分析を始めた。そうしているうちに、もっと関心を持つようになったんだ。スリラーというのは、とても新しいジャンルだ。イタリアには推理小説作家が大勢いるけど、スリラー小説の作家は少ないんだ。
Q:スリラーになくてはならないものとは?
 相当な量のどんでん返しと謎だよ。独特の感情も常に必要だ。プロットの展開の中にある論理的な仕組みに頼るだけでは十分ではない。また、観客がもう知っているかもしれないとか、観客が精通しているかもしれないという恐れも重要だ。執筆の際にはいつも複雑な結末から始めて、そこから前に戻っていくんだ。また、私はサスペンスを作り出すことに関心がある。私が書く物語の中では常に欠かせないものなんだ。そして私の物語には暴力が登場しない。本作には流血がないし、銃が発砲されることもない。そういったものがなくてもサスペンスを作り出せるんだ。
Q:サスペンスはどのように作り出すのですか。また、読者や観客をどのように怖がらせることができるのでしょう。
 僕自身が怖がりなんだ。菜食主義者の肉屋のところにステーキを買いに行ったりなんてするかい? 恐れというのは、恐れを体験している人にしか語れないんだよ。
 本作は緊迫感に満ちたとても暗いストーリーで、劇的な捜査についてどぎまぎするような雰囲気で語っているんだ。ミステリーでありながら、人を魅了するような形で現実を語っていると見ることもできる。ニュースになった事件に関心が寄せられる背後に、覗き趣味や病的心理があるとは思わない。人というのは、恐れがあるから犯罪のニュースを追いたくなる。それは闇に対する恐怖であって、何らかの形で取り除かなければならないんだ。

トニ・セルヴィッロ インタビュー

Q:本作への出演を決めた理由を教えてください。
 まずドナート・カリシが書いた見事な脚本の質の高さに心を奪われた。彼の原作小説を読んだことがあり、私の目にはそれが幾何学的な視点から見たら完璧なスリラーとして映ったんだよ。小説の組み立ては並外れて効果的で、テーマの観点から見てもこのジャンルを超えるほどの豊かさがある。法廷ニュースとマスメディアの間のやりとりも面白いと思った。カリシはそこからひらめきを得て、平凡な悪を現実的な観点から見てまとめたんだ。
Q:あなたが演じたヴォーゲルというキャラクターについて語ってください。
 実在の人物なのかどうかはわからないけれど、完全な二面性があって面白いキャラクターなんだ。非情であると同時に、不快なほどに自信満々。ヴォーゲルは虚栄心の強い人を蔑む。でも彼は、困難な状況に置かれて抑圧されると、足場が崩れるように脆い。顕著にうぬぼれが強い面と、突然顔を出す脆い面とのはっきりとした対比を表現することが非常に重要だった。
Q:セットでのカリシ監督はどうでしたか。
 俳優と関係者全員を、あっという間にこの作品に引き込んだ。監督としては初めての作品なのに、セットでは最初から専門性を発揮して、皆を驚かせた。非常に面白いと思ったのは、その専門性がただ自分の物語を忠実に語りたいというドナートの単純な思いから派生しているということ。まるで、カメラを手にしながら執筆したと思える作品だから、彼は監督することに対してかなりの自信を持つことができたんだ。
Q:制作の過程は順調でしたか。
 楽しくて、平穏だった。俳優陣と制作陣は、自然な形で互いを深く理解していた。カレッツァ湖の近くにある大きなホテルがこの物語の中心的な存在のひとつで、そこで重要な出来事が起こるため、重大な役割を果たすんだ。そして、そのホテルは大変身を遂げた。プロデューサーたち、監督、セット・デザイナーの賢い提案のおかげで、がらんとした大広間が撮影所になったんだ。その荘厳な建物の中で、現実と魔法の間にあるような雰囲気の中で、毎日あらゆることが展開していった。他のセットもがらんとした広間に作られたことで、一風変わった魅力が全体に漂った。
Q:ジャン・レノとの共演はどうでしたか。
 それぞれが演じた役柄の特殊な兼ね合いのおかげで、物語の中心部で真のパドドゥ(男女ふたりのダンサーによる踊りを意味するバレエ用語)を見せる機会に恵まれた。実際に会う前から、すでにお互いを心から尊敬していたよ。私たちはそれぞれ相手の実績と可能性を理解していたからね。一緒に演技することで自分たちを試したいという強い思いがあった。ジャンは国際的に活躍する非常に才能豊かな俳優で、この作品に出演することに対して誠実な態度で臨んでくれた。また、彼の素朴さと意欲は、私たち全員を驚かせ、魅了したんだよ。