かつてリゾート地として栄えた山間の田舎町アヴェショー。雪が降りしきる深夜、引退間近の精神科医フローレス(ジャン・レノ)が、警察から捜査への協力を要請される。彼が事情を聞くよう依頼された相手は、交通事故によって記憶が混濁したヴォーゲル警部(トニ・セルヴィッロ)だった。ヴォーゲルはアヴェショーを騒がせた少女失踪事件の任務を終え、都会に戻ったはずなのに、なぜ真夜中にこの町へ舞い戻ってきたのか。ヴォーゲルのシャツにこびりついている血痕は誰のものなのか。フローレスに促されて重い口を開いたヴォーゲルは、数週間前のクリスマス・シーズンにさかのぼり、世にも奇妙な少女失踪事件の全貌を語り始めた……。
アヴェショーの町が濃霧に覆われた12月23日の18時頃、教会に行くため自宅を出た地元の少女アンナ・ルーが謎の失踪を遂げた。捜査の指揮を執るためアヴェショーにやってきたヴォーゲルは、目撃情報も物証もないこの事件を何者かによる誘拐だと断定する。しばしばテレビに出演する有名人であるヴォーゲルは、アンナ・ルーの両親にテレビ向けの会見を行わせ、ヘリコプターや山岳救助隊を駆り出して大規模な捜索を開始。さらには顔なじみのニュース・レポーター、ステッラ(ガラテア・ランツィ)を利用して、この事件をイタリア全土の注目を集めるよう仕向けていく。ヴォーゲルが得意とするメディア戦略を駆使した捜査手法は効果てきめんで、あれよあれよという間に大勢のマスコミがアヴェショーに殺到してくる。
まもなくある動画を手がかりとして、失踪前のアンナ・ルーにつきまとっていた不審な白いオフロード車の存在が浮上し、車の持ち主である文学の教授マルティーニ(アレッシオ・ボーニ)に疑惑の目が向けられる。アンナ・ルーが通う高校でも教鞭を執っているマルティーニには共に暮らす妻子がいるが、事件当日の午後はひとりで外出しており、確かなアリバイがない。猛烈な取材攻勢をかけたマスコミがマルティーニに不利な証言を次々と報じたことで、たちまちマルティーニは八方塞がりの状況に陥っていく。
白いオフロード車が映り込んだ動画は、アンナに密かな想いを寄せていたマティアという少年が偶然撮影したものだった。それを入手したヴォーゲルはマルティーニが真犯人だとにらみ、動画をマスコミにリークした。こうして狙った“獲物”をじわじわと追いつめ、逮捕につながる決定的な証拠を捜し当てていくのがヴォーゲルのやり方だった。かつてイタリア中を震撼させた“破壊魔事件”で無実の男を死に追いやった苦い過去を持つヴォーゲルは、自身の汚名をそそぐために今回の事件の解決に執念を燃やしていた。
やがて川辺でマルティーニの血痕が付着したアンナ・ルーのリュックが発見され、ついにマルティーニは逮捕された。ところが任務を終え、アヴェショーを立ち去ろうとしていたヴォーゲルは、ベアトリーチェ(グレタ・スカッキ)と名乗るベテランの記者から思いがけない真実を知らされる。正体不明の連続誘拐魔“霧の男”の存在を示唆するその驚くべき情報は、ヴォーゲルの“完璧なる捜査”を根底から覆すものだった……。